高騰していく物価、そしてコロナウィルスの蔓延。日本も飲食だけではなく多くの業種、業態が脅かされました。今もそうですが、個人も大手も懸命に存続の道を探りながら抵抗し続けました。ですが力及ばず、なくなってしまった個人店、企業があるのもご承知のことかと思います。今回紹介する「せきざわ食堂」は惜しまれつつも閉店してしまった名店です。
豊島区東長崎に「せきざわ食堂」という昔ながらの食堂があり、地元の人たちに愛されていました。「孤独のグルメ」やムックに取り上げられたこともある人気店です。今回は前述ドラマの中でもメインで登場し、五郎ちゃんを唸らせた「生姜焼き目玉丼」を紹介します。

「旨いものを安く食べて欲しいんだよ」
そんな店主さんの思いから安くて、栄養価が高い多くの料理を提供し続けたせきざわ食堂。¥390セット、ワンコイン定食などお金に余裕がない若者やサラリーマンの聖地だったわけです。
「でも、牛丼チェーン店に¥280(当時)で出されちゃったら、個人じゃ逆立ちしても勝てません。美味しいものをって頑張ってるけど、これ以上安くしたら潰れちゃう」
インタビューの記事を見たときすごく切なかった。僕、大手チェーンの出身だから。なんで、共存できないんだろう? 大手には大手の良さがあり、できないことを個人店が補っていけば共存できるはずなのに。大手は組織の大きさを使って原材料費を安くしたり、効率を上げて少ない人間で大きな利益が得られるシステムを走らせています。あちこちに出店して、安定した味を安価に提供することが使命です。もちろん雇用の創出もそうです。個人店は昔ながらの付き合いから食材を安く仕入れたり、近所の人たちが定期的に、足繁く通うことで一定の利益を確保し運営を維持しています。大手にはできないサービスやメニューに対しての柔軟な対応(メニューにないものを作ってくれたり)、そのフットワークの軽さが持ち味です。
でもね、「○き家で牛丼食べた後に、いつも世話になってるからとせきざわ食堂に出かけて牛丼は食べない」んですよ。イオンが進出して昔ながらの商店街がなくなったとか、よく聞きませんか?
便利で安価で大量な物量を誇る大手が進出することはその中の業態を生業としない人にとってはいいことだけど、そうじゃない商人(あきんど)にとっては死活問題なんですよね。せきざわ食堂さんはコロナ禍前の閉店でしたので、その影響ではないにせよデフレ期において大手や原材料費、光熱費などとの壮絶な戦いがあり、その傷が店を閉店に追いやったんじゃないかななんて思いました。

「子供にはつがしたくないんだよ」
なんて店主がいってましたっけ、繁盛していた頃に。お客さんの前では笑っていても、ちょっと利益が上がっていても半ば、どんよりした気持ちは拭えなかったのかもしれません。ドラマや資料をもとに再現した「生姜焼き目玉丼」。店主の思いを僕たちは受け止めて、未来へ繋いでいかなきゃと思いました。「真心」が現実に負けませんようにと祈りつつ、昭和、平成を戦った「せきざわ食堂」さんに、敬礼っ。