老舗の旅館の懐石料理や、名店のお膳が美味しいのは当たり前です。大切なのは「何故美味しく感じられたか」だと思います。今回は様々な名店で美味しいお料理をいただきました。一番なのはロケーション。その場所で食べることの価値です。海や夜景が綺麗な場所であることはもちろん、食べる場所、環境、細かく言えば器の色合いや料理をのせている時の温度、大切なお膳を彩る調度品のあつらえ... 何もかもが美しく調和して美味しさは約束されます。それを改めて実感しました。

老舗料亭のお献立です。この美しい料理登場の流れが世界に誇る和食の真髄「懐石料理」です。さすがにiketchも背筋がピーンとなりました。

常々言っているように、料理の美味しさは食べる前から始まっているということを改めて思い知らされました。一つ一つの食材の輪郭がはっきりしていて、まず「目」で楽しませてくれます。そして「香り」。懐石料理なら食前酒や、たらの芽の香りがほのかに漂い、すき焼き御膳なら甘い割下の香りが食欲をそそります。海鮮尽くし御膳からは磯の香りや天ぷらの香ばしい香りがうっとりと漂い食べる人を魅了します。当然、これを最高のロケーションで頂くわけですから、忘れられないひとときになるのは確定です。全ては無理ですが、こういう感性を日常に持ち込みたいなと思いました。難しいかな... できないのかな...

できることって「温かいものは温かく、冷たいものは冷たく頂くこと」、「パックのまま食べるのではなく、器に盛り付けて頂くこと」、「調理する際、炒め物は炒める、焼き物は焼く、煮物はしっかり煮る」ことぐらいでしょうか。僕が姐さんや、チーフ、先輩から学んだことを思い出していました。「? 待てよ... もしかして!」

「そう、その当たり前のことを誠実に、真摯に貫くとこういう料理になるんだ」

という見本みたいなお料理だったことに気付かされたんです。祖母の料理で真っ先に思い浮かべるのは「炊き立てのご飯」「熱々の味噌汁」「手間かけて仕込んだ漬物」、この3品です。数は少ないですが、これが「間違いなく美味い」理由が、当たり前のことをきちんとやり遂げる誠実さだったんです。美味いものを作るのではなく、美味いものを食べてもらいたいと思う気持ちが抜群に料理を美味しくしていたんですね。すごい気づきでした。ロケーションも器もそのために存在しているんです。

日常に持ち込む工夫をする(気を衒う)ことではなく、日々目にするものの中に溶け込んでいくような料理を作ること。これが本来忘れられない味なんじゃないでしょうか。「炊き立てのご飯」「熱々の味噌汁」「手間かけて仕込んだ漬物」が当たり前に美味しく感じられるもう一品(美味いものに寄り添う一品)を作っていきたいな、と心を新たにしたiketchでした。

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