ちょっと時間が空いてしまいました。さ、鯛のカブトは買ってありますか(冗談です)? 今回は...
①あらの処理
②だし引き
の2点をクローズアップして見ていきます。まず、あらというのは 魚肉を料理したあとの、骨にまだ肉のついているものを言います。「粗」と書きます。魚を解体したあと頭(カブト)、背骨、中骨などに肉がついたものを使って作る料理の一つがあら汁というわけです。食べられる部分は少なく、廃棄するべき部分が多いのは事実ですが、本体の切り身にはない独特の「濃い」旨みや、だし感が煮物、焼き物を問わず美味しくさせます。

スーパーなどで売っているあらは鱗取くらいまではしてあるんですが、1匹で買うと一から鱗取りをしなければいけません。そこからいきましょう。買ってきた鮮魚は一度流水で軽く洗い流し滑りをとります。次に包丁や鱗とりを使って魚の鱗を剥がしていきます。イワシやさんま、あじなんかはほとんど鱗もなくそこまでしなくてもいいんですが、その他の魚はこの作業をしないと口の中に鱗が張り付いて食感的にも美味しくありません。今回の鯛も鱗が大きく多い魚なので、尻尾から頭にかけて満遍なく鱗取りをし、流水で洗い流します。そのあと内臓を取り出し、頭を落とし、3枚に下ろすという流れになります。
おろした後は頭、中骨、尻尾などが粗として発生します。これを職場では両面グリラー(サラマンダー)に並べ、遠赤外線で焼きつつ、匂いとその元になる汁を蒸発させたり受け皿に落としたりさせます。ただ焼いているわけではなかったんですね。そうして香ばしく焼け、干物のようになったあらを大鍋で煮出してベースを作り、味付けをして完成させるんです。とても大掛かりな作業です。一度に十数人前とか作るんでその分あらも大量に必要になります。鮮魚を取り扱っているとこれを楽しみにしているお客さんもいて「今日、あら汁ある?」なんて聞かれたりします。たかが「骨の汁」と思うかもしれませんが、一度として同じだしは引けませんし、まさに一期一会の勝負料理になります。完成したあら汁を味見した瞬間、
「よし、こいつなら勝負(販売)できるな」
と思えれば、その日の営業にも気合が入ります。値段も安いし、なんなら一番うまい料理とさえiketchは思います。
「ここ(iketchの職場)のこれ(あら汁)が、一番うめぇのよ〜」
なんて赤ら顔のお客さんの幸せそうな顔を見ると、本当に嬉しいですし、魚たちにも
「オメェら最高だったってよ」
って笑顔でサムズアップしてやりたくなります。最後の身まで食べてもらって、その人生まで味わってもらって... 魚に対して感謝の気持ちと嫉妬心が湧いてきます。そんな人生でありたい、と思わせてくれる料理でもあります。説明が長くなりました。
ただ、家では上記のような作業ができません。サラマンダーなんか置いてある家ほとんどないでしょうし、1匹ものを買うにしたってあらもすぐにはたまりません。そこであらに関して、捌いた後は「冷凍保存」で構いません。それである程度の量を貯めてください。大きな真鯛のカブト(今回はそれ)なら1個でいけますが小魚(さんま、あじ、いわし、トビウオなど)だとだしが出ません。何匹分かストックしておいて量が溜まってからチャレンジしてみてください。冷蔵解凍(リードペーパーを引いたバットに1日冷蔵庫に入れておく)しておけば平気です。解凍が終わったら塩を満遍なく振って15分程度臭み抜きをします。
家で作る方法としては「湯引き」してやるのがベストです。1Lのお湯を沸かして、鯛のカブトが白っぽくなるくらいに茹でて流水に晒します。長くは茹でないでください。旨みも抜けますし、身も固くなります。

次がちょっと面倒なんですがまだ残った鱗や、血あい、内臓を丁寧に指を使って流水で洗い流していきます。食感やニオイの問題がありますので、この操作をしないと「美味しくないだし」になってしまいます。

綺麗に掃除が完了したらいよいよ煮出します。昆布は引くおだし用の水に30分はつけておいてください。そして水の状態からあらを入れ加熱していきます。ここがポイントです。煮魚は沸騰した煮汁に入れて煮崩れを防ぐんですが、ここでは先に入れる操作になりますのでお間違えなく。沸騰し始めたら、昆布だけ取り除いてください。沸騰させたお湯に昆布は厳禁です。そして、1時間ほど弱火でゆっくり加熱してください。アク取りは最後の最後でいいのでゆっくり、ゆっくりです。ボコボコさせないようにしてください。

1時間経ったら軽くアク取りをし、塩と薄口醤油で味を整えます。器に崩れないように兜を置き、煮汁をかけてください。その煮汁の美しさにびっくりするはずです。職場では味噌仕立てなんですが、今回は出汁の美しさをみてもらいたくてすまし汁仕立てにしました。添え物は三つ葉だけです。どうですか?
このすまし汁も万能で豆腐を入れて煮奴にしたり、冷まして炊き込みご飯のベースにしたり、他の調味料などを加えて麺類のスープにしてもいいですよ! まさに無類の力を持った強くて優しいおだしです。
だしの基本って面倒なことをいかに丁寧に、根気強くやり切れるかに尽きます。食材と向き合う真剣勝負、このブログを見てきたみなさんならできるはず! ごちそうさまでした!