姐さんは静岡県の調理師であり、僕がこの道を進むきっかけになった方です。正確には叔母に当たるんですが、色々な形で導いてくれました。病気で亡くなられましたが、死してなお僕に大きな影響を与え続けてくれています。背が低くて、負けず嫌い。でも、料理の腕はピカイチで、どんな小さな料理にも独自のこだわりを見せてくれた板さんでもあります。亡くなってそりゃあもう、何年もたつんですが、思い出すのが「れんこんのアク抜き」です。僕は姐さんのきんぴらが好きで、作っている姿を幾度となく見てきました。ある時期、酸っぱいものが食べられないときがあって、漬物すらだめだったんです。姐さんがその日、きんぴらを作っていたんですけど、キッチンにお酢が置いてあるのが気になって仕方なかったんです。さて、薄切りしたレンコンが入った器には水が貼ってあったんです、アク抜きですね。姐さん突然、お酢を入れちゃったんです。見てましたよ、僕。「姐さん、酸っぱいのは嫌だよ〜」なんてごねてたら、「〇〇くん、れんこんは酢でアクを抜くんだよ。それ、ちょっと舐めてみ(て)」っていうんです。「うん、酸っぱくない!」て驚くと、優しい笑顔で「そう、ちょっと入れるだけで白いれんこんになるの、面白いね!」。何十年もたって調理師試験受けた時に「れんこんのアク抜き」が問題で出たんです。迷わず、酢水って選択しました。「〇〇くん、やったじゃん! 点数もらっとき!」なんて、解答用紙に姐さんの顔が浮かんで、目頭熱くなりました... 「姐さん、ありがとう」って。試験合格しました。思い出の調理方法、思い出の料理、難しくて何度も挑戦した料理。姐さんにはまだかなわないけど「どう、僕頑張ったよ」って胸張りたい料理です。この白くて綺麗なきんぴら、「姫きんぴら」って名付けました。

白いでしょ! でも、きんぴらの味なんですよ。上品な味わいで辛さもじんわり。料亭の味です。

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