叔母(僕は姐さんと呼んでいたので、以下姐さん)も調理師でした。名古屋に帰省した時に楽しみなのは姐さんの料理。もともと静岡の保養施設の調理場で腕を振るっていた人でしたから、調理に関しては鉄板のうまさ。その時は体調を崩していてキツそうだったのですが、自分が久しぶりに帰省してくるんで無理するんですよね。
食事の席に着くと、自分のお気に入りの器に美しく盛り付けた刺身や、大好きなきんぴらが並んでいる。ちゃぶ台みたいな小さなテーブルにきちんと配膳してありました。僕はとても嬉しくて近況報告をしながら、食事を楽しみました。しばらくすると姐さんが耳打ちしました「ごめんね、刺身買ってきたののっけた(盛り付けた)だけなの」なんて舌をぺろっと出して。姐さん、なんで正直に言うかなあ... 嘘つけないんですよね。「姐さんの料理はなんでも美味しいよ」とだけ答えておきました。
姐さんが休んでから祖母と話をしていた時、体調が思わしくないことを聞きました。この日も病院に行っていたんだそうです。簡単な料理かもしれないし、乗せただけかもしれない。でも、姐さんの愛と調理師の意地を見た気がしました。美味しく食べてもらうことに妥協を許さない姿を。僕はまだその時29歳で下っ端の店長でしたが、こんな姐さんの後ろ姿を見て、調理師になろうと思いました。今日はそうめんです。湯がいて、めんつゆ希釈しただけです。トータル5分です。写真の方いかがですか? 美味しそうに見えますか? 手間暇かけた料理は確かに美味しい。でも、美味しそうに見える、見せるひと手間が日々の食生活を豊かにするんじゃないかと思います。